SEAT 8
山中は忙しい
しばらくして母は逝った。

私たちを残して。

母が逝く1週間前に椿に母の病気のことを私から話した。
思ったとおりに椿は泣いた。

泣いて、

叫んで、

「なんでなの!?」と言った。

私はどうすることもできない。
幼い弟を抱き締めても、私の腕は母の腕ではない。
椿はこれからなくなってしまう物を欲しがっているのだからどうすることもできない。
そして私も椿と一緒。
どうしてもなくしたくない物を失う。
でも椿が失くすものは母だけではなかった。
家族でもなかった。
それは、どの母親も子どもに与えているであろう、
これから創っていく暖かい思い出だった。

私にはそれがあって、椿はこれから創っていくはずだった。

だからそのときの椿はただ、かわいそうだった。
私が椿にして上げられることは、何一つなかった。
母は苦しまなかった。

「痛いのとか苦しいのとか嫌だから」

と言ってモルヒネをバンバン注射してくれる病院へ自らいった。
母がそんな風だから私は意外と悲しくなかった。
母は自分の人生を生き切ったのだろうと思えた。
私にはそう見えた。 母が逝く時。 私と椿は横で座っていた。

その日の朝、担当医が

「もう無理でしょうからそばにいてあげてください」

と言った時には二人とも覚悟はできていた。

「母を静かに見送ってあげよう」と言葉を交わさずに幼い弟と私は思っていた。

「きっと椿はいい男になるわ」と私は思った。

夕陽が沈む頃母が
「コーヒーが飲みたいわ」
と言ったので、私は病院の売店で買ったカップのコーヒーを入れてあげた。

コーヒーを飲み終える前に、 母はゆっくりと静かにこの世を去った。
そのときの母の顔はとても穏やかだった。
半分だけ残ったコーヒーが切なかった。
葬儀はたんたんと進んだ。
山中がいたからそう思えたのかもしれない。
山中は手馴れていた。

「友達の親が亡くなった時に大体俺に相談に来るんだよ。
ほら、俺親いないから。
だから何回かこういう事やらされてて、もう慣れちゃってるんだよな。
さすがにおばさんの葬儀だからちょっと気分は重いけど。」

そのときの山中は母への想いをテキパキ動く事で現しているように見えた。
私は心の中で「ありがとう」と言った。
言葉で伝えるにはまだ少し心が重かったから。

しかし、山中が慣れているとはいえやはり初七日までは忙しかった。
「葬儀と結婚式は何となく流れていくものだから。」 と葬儀に参列した近所のおじさんが言ったのもうなづける。
やることはいっぱいあった。
でも、後に残るものがない。
だから進んでいく感じではなかった。

流れていく。そんな感じだった。
火葬場で山中にそう言ったら
「きっと悲しまなくてすむように、そうできてるんだよ」と言った。
私と山中が感じているものはきっと通じてる。
そう思えた。

そのあと深い悲しみを薄めるように、私と山中は忙しく動いていた。

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CD
ゴトーチバンドアーカイブ area3 ワレサキニ[GSL-00004]
♪Evening glow/君がいない街(収録)
ゴトーチバンドコンピレーション 全13曲収録
発売元:グランドスウエルレーベル
販売元:アミューズ

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※他、CD通販、全国CD店にて発売中

音楽配信
ゴトーチバンドアーカイブ area3 ワレサキニ[GSL-00004]
♪Evening glow/君がいない街(収録)
ゴトーチバンドコンピレーション ボーナストラック含む 全17曲収録
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