「鈴鹿はポチみたいだな。」
山中はまっすぐにこっちを見てそう言った。
「え?」
私は驚いた。
椿ではなく私にポチと似てると言ったこと。
「椿のほうがポチっぽいわよ。
あの子のほうが犬のように山中になついてるじゃない。」
「違うよ。」
山中は微笑んだ。
「行動とか仕草じゃないんだ。今の鈴鹿は俺の中でのポチなんだ。」
照れたように笑う山中。
少し首をかしげている私。
「鈴鹿はきっと気づいていないんだろうけど、俺の言うことをじっくり聞いてくれるんだよ。
椿はまだ子供だから自分の好きなことをするために俺になついているだけだよ。
ポチは、俺に対して誠実に付き合ってくれた。
当時の俺には友達みたいな存在だったんだ。心が通じ合っていた気がした。
だから俺も誠意をこめてポチと付き合った。
鈴鹿との関係はポチとの関係によく似てきてる。」
「私が一番世話したのに私にはなつかなかったのよね。」
私がムスっと言うと、山中はもっと笑った。
大きく声を出して。
「ポチが本当になついてたのは鈴鹿だよ。」
「だって、ポチは私にはおすわりもお手もしなかったわよ。」
違う違う、と言いながら山中は続けた。
「ポチは鈴鹿にだけ甘えていたんだよ。
一番世話をしていたし、母親みたいな存在だったはずだよ。きっと。
いい飼い主だったってことだ。」
「そうなのかしら。」
山中は私から視線をそらした。
無視をした。と言う感じでなく遠くを見るように。
「なんか、ポチと俺って境遇が似ていたんだよな。」
山中はそのとき、そう言いながら手元のコーヒーカップに視線を移した。
目は遠いままだった。
何故だろう?
そのときの山中が淋しそうに見えたからか、
わからないけど。
私はこのとき山中を愛しい、と思った。
守ってあげたい。と思った。
山中の、大人びた少年のような性格も
たまにしかみせない弱さも優しさも、培ってきたどうしようもない境遇も。
山中のすべてが愛しかった。
それはまぎれもなく恋心だった。
不意に芽生えた感情に胸がドキドキした。
「おばさんにはすごくよくしてもらってたけど
小さい頃はやっぱり血がつながってないから藤原家のみんなとは他人なんだって感じてたんだよ。
自分の境遇をかわいそうだと思い込みたかったんだろうな。
だからなんだか自分がペットみたいに飼われているんじゃないかって
ずっと思ってた。
だからポチの気持ちがわかるような気になってた。
今思えばそれは必死でポチの気持ちをわかろうとしてたことでもあったんだよ。
おばさんがいなくなって
鈴鹿が俺と似たような環境になってしまった。
俺はずっと親がいないからそれを不幸だとは思えない。
鈴鹿はそんな俺の気持ちをわかってくれてると思うんだ。
ポチは俺を違う生き物だけど仲間だと思って、おすわりやお手をしてくれてたと俺は思ってる。
お互いを同志のように感じていて、気持ちをわかりあうためにしてくれてたように思うんだ。
賢い犬だったしな。」
真実かどうかはわからないから想像でしかない話だけど
ポチも、山中の言うように山中のことを思っていたのだろうか。
そして、ポチに似ていると言われたそのときの私は、 山中に触れたいと思っていた。
触れて、抱きしめてあげたい。と。
ぎゅっと、抱きしめて、守ってあげたいと。
そんな切ない気持ちでポチのことを見ていたなんて知らなかったから。
そしてそんな気持ちが今は私に向けられている。
だから私は自分の今の気持ちと、山中がくれた気持ちのお返しにこう言った。
「一緒に、生きましょう。」
抱きしめてあげられない分の想いを、ぎゅっと、その一言に込めたつもりだった。
山中は微笑んでうなづいてくれた。
これから先。
私たちにはいろんな事が起きるだろう。
椿が大きくなって進路のことを三人で考えたり。
山中も仕事をしだしたら毎朝送り出してやらないといけない。
朝食はたぶん私が作ることになるだろう。
味はどうであれ大食いの山中は何も言わずに全部食べる。
そうだ、もしかするとお弁当も作らなければいけないかもしれない。
椿と山中と、二人分。
夜になるとみんなでテレビのチャンネルを取り合う。
そのうち一週間くらいで見る番組のサイクルが決まってくる。
テレビを見ながらあの芸人が好きだとか話をする。
休日にはDVDをレンタルして映画を見たりする。
アニメとホラーと恋愛もの。
椿と一緒にアニメを見てはしゃぐ。
あのキャラがかわいいよね。とか。
ホラーはとびきり怖いのがいい。
怖がる私を見て山中が喜こんだりする。
恋愛ものは思い切り泣けるほうがいいな。
三人並んで泣いたりするのだ。
たまにはちょっとしたことで喧嘩したりする。
もう顔も見たくないとか思ったりもするだろう。
旅行にも行きたい。
県内の温泉旅館のような近いところへも、
海外とか遠いところへも。
何もかもをそばで身近に感じるということ。
一緒に生きるということ。
山中と一緒に生きていきたい。
そう、
その時私は山中が思っているポチのように。
気持ちをこめて「一緒に生きましょう」と言ったこと。
それはポチが「おすわり」をしたのと、同じ意味なんだろうとこの時私は思った。
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アルバム:ゴトーチバンドアーカイブ area3 ワレサキニ
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